染まりません、
染まりません、
あなたなんかに・・・・







「そないに、早う死なんでも・・・・」
ボクがきっちり殺したるさかい、な。





ニィと上がる薄い唇が愛おしいと思う病に私はとっくに冒されてる。
私だけに巻き散らかされる市丸ギンの病原菌に抗体などすでにあるはずも無く。





待ち望んでも、その日は来ない。
ギンが私を殺める日など。
来るのは、私がギンへの想いに押しつぶされる日だ。






ふたりで夕焼けを見たのはススキがやたらと風に揺れた日だった。
鬼灯を裏返した色の空をギンは静かに見上げていて、私はそんなギンの横顔に見惚れる。
元々、色素の薄い肌の色は髪も銀灰だ。




そっと伸ばした指先が赤に染まった冷たい男の頬に触れると頬以上に冷えた手が私の腰に回る。




「なんや、 。寂しいん?」
と呼ぶ独特のアクセントは時に毒々しさを植えつけられる。
寂しくないはずなんかない、隣で弓形の目を作る男は、何百年かかろうと私のものにはならないから。




昇る朝日よりも、光を照らす陽よりも、ギンにはまだ訪れることなど無い晩年に似た、堕ちて姿を失う夕陽が似合った。




抱き寄せられるたびに、私はギンを憎む。
初めから手に出来ないものなら、諦めればいいものを。
自分だけのものにならないギンに、いつまで私は愛を抱いていればいいのだろう。





「六番はんは、気付いてはるやろな。」
敢えて、名前ではなく符丁のような言い方をするギンの気持ちが薄く分かる。



だらりと・・・
夕焼けが大虚の切り裂かれた躯と見紛うほどに紅く溶ける。
ドロリと・・・
ギンに切り裂かれて流す生温かなべにいろの雫が脳裏に押し寄せる。



羽裏色は白殺し、金盞花刺繍の隊花、その意味は絶望。
ギンはそれを与えるのか、甘んじて受けるのか分からないけれど。





ねぇ、あのひとは私を許さないわ。
こうして、ギンの決して温かくは無い体温を愛おしいと思う私を。



ギンの唇に載るただひとつの熱さを受けながら、私は瞼の裏に蘇芳に染まる自分の姿を夢のように見続ける。



ちゃん・・・!」
ギンの呼ぶ声、あのひととは違う、全部が違うから私は迷う。
「六番はん、 ちゃんがおらんで・・・お冠やろね。」
せやかて、キミはボクを選んだんやから。




どうか、覚えていて。
闇真紅が遠い空の果てに堕ちたことを。




私も、蘇芳の非色に抱かれて、
・・・・あぁ、堕ちる。







合間見えぬ魂を持つ二人の死神に愛された私に浄土など無い。







あるのは・・・






染まりません、染まりません・・・・ギン、あなたなんかに。
金盞花に誓って。









蘇芳
燃える朱の乱舞






「君の鳴く場所さまへご笑納
亜奏夜羽