なんだか、泣きそうになった。
だって、恋次があんまり優しいから、私はいつだって彼が優しくしてくれると泣きそうになるのだ。
胸の奥の真っ黒な部分、隠れている部分でさえも優しく包んでくれる彼の優しさは、私を壊す凶器であり私を癒す宝物でもあるのだ。
「私、恋次には似合わない」
二人きりの部屋、恋次のにおいが漂うこの部屋にはまだ数回しか訪れたことはない。たまにしか休みをとることのできない恋次がやっととれた休みを、私は貰っている。
外に遊びに行こう、と誘ってくれた恋次には悪いけれど、正直どこにも行きたくはなかった。
恋次は、副隊長。私は、平隊員。
そんな2人の交際を、周りの女の子たちは良いと思うわけがなかった。外に行けば、噂にもなるし、噂になれば、嫌味だって言われる。
そうでなくても嫌味をふりかけられて、私は一人で泣いている。
それでも、恋次がすきなのだから、仕方ない。
「そんなこと、ねーよ」
恋次はニコッと笑った。
お昼ごろ、この部屋を訪れたときのことを考えた。
恋次は寝ていて、私は行き場もなかったので、とりあえず部屋に入り恋次の横に座った。
それから、少しして恋次は起きて、私と恋次は話をしたり、キスをしたり、ケラケラ笑ったり、静かな時間をすごしていた。
窓からは、橙色のやわらかい色が入り込んできた。
「怖い、の」
「なにが?」
「私、きっと恋次と合っていない。ルキアさんみたく、貴族ならまだいいよ。雛森さんみたく、副隊長ならまだいいよ。恋次、恥ずかしくない?私、恋次が嫌なら、」
言葉を、止めた。
『恋次が嫌なら、別れられるわ』
そんなの、うそだ。
所詮、偽善だ。
「俺は、がいいんだ」
そんな、少女漫画みたいなキザなセリフを言った恋次の言葉をどこか遠くの自分が信じられていない。
―――つりあっていない、
―――別れてよ、
―――所詮、都合のいい女。
女の子たちが私に告げた言葉たち。どうしてこんなときに思い出すのだろうか。
、不安なことは、全部俺に言え」
隣に座って正面を向いている私たち。
視界の端っこには恋次がいる。
「お前、弱音をもっと俺に言ってくれよ」
「弱音、なんてないよ」
「あるだろ、」
「ない」
「うそつくな、」
視界の端で恋次がうつむいた。
「うそつかれると、強がられると、すっげぇつれえよ」
恋次、泣きそう。
男なのに、副隊長なのに。
恋次も、ひとだ。
一人の人なのだ。
副隊長とか、そういうの関係なしで一人じゃ生きていけないたった一人の孤独な人間なのだ。
「恋次、」
私は、恋次の方を見た。
柔らかい光は恋次の紅い髪の毛に当たって綺麗に輝いていた。(これ、紅緋色だ)それが綺麗過ぎて、恋次の優しさが暖かすぎて、いきなり涙線がゆるんだ。
「胸、かして」








紅緋

暖かい彼の胸の中で思いっきり泣いたら、涙と一緒に不安は消えた。次に不安が訪れても、もう大丈夫だと、心のおくの私が笑った。










to::君の鳴く場所さま